舞台「嫌われ松子の一生」

舞台「嫌われ松子の一生」を観劇した。10/1の13:00「黒い孤独」篇と18:00「赤い熱情」篇、両方。川尻松子を演じるのは前者が乃木坂46若月佑美さん、後者が乃木坂46桜井玲香さん。

 
 
桜井玲香さんの、心に一本筋が通ってるところ、凛とした佇まい、あんなに柔らかくて優しいのに本当に薄汚れたものや邪悪なものを寄せ付けない気位の高さはどれも「川尻松子」と相容れない。彼女(桜井玲香)は弄ばれる側の人間じゃない。
共演者のなだぎ武さんは桜井玲香さんを憑依型だと表現したが、私は桜井玲香さんは考えて演じているように見え、むしろ憑依型は若月祐美さんではないだろうかと思った。若月佑美さんは優しい人だけれど、その優しさに付け込まれてドロドロに堕ちていく愛の姿が川尻松子のそれと見事に一致していて、表現力が高いだとか声のだしかたがどうとかそんなレベルの話じゃなくて、まさしく「川尻松子」と一体化していた。ああ、若月さん、あなたの演じる松子ってほんと、幸薄いのよね…辛い。

この作品のサブタイトルは「黒い孤独」篇と「赤い熱情」篇である。でも、今回初めてこの舞台を拝見して、この2つに分ける意味が見出せなかった。脚本も役者も演出もほぼ同じ2つの作品を主演の力だけで孤独と熱情という二項対立に持っていくのは無理でしょう。そして作品そのものがどちらかといえば「熱情」よりも「孤独」に寄り添うものであったので、普通に「Wキャスト」でよかったと思う。

一生の中で6人の男性と愛し愛される松子が人生の最期に「自分は嫌われて生きてきた」という結論を出したが、本当にそうだっただろうか?「幼い頃から父に嫌われていた」という松子の台詞と「父さんは毎日日記の最後に、松子から連絡なし、と書いて死んでいった」という兄の言葉の矛盾からも、題名の「嫌われ」の部分は本人の思い込みであることが明らかだ。この作品は、「嫌われ(てると思ってる)松子の一生」を描いた物語なのだ。

先に観たということもあり私は若月祐美さんの出演する方の「嫌われ松子の一生」でボロ泣きしてしまった。どのシーンで何を感じ泣いたのは自分で思い出せないほど常に泣いていた。最後に「洋くん」の幻(だったのではないかという私の解釈だが自信がない)を見て愛されていたと実感し息を引き取る松子には息が詰まった。最初から最後までくるしくてこわくてかなしい物語だったが、最後の最後、やっと温かい気持ちになった。
乃木坂のメンバーの出演する舞台は面白い。坂道グループの舞台やドラマにはケラさん(ナイロン100℃ケラリーノ・サンドロヴィッチ)やその劇団員が携わることが多いのも強みだ。私が今まで観た乃木坂メンバー出演舞台は「帝一の國」「リボンの騎士」「すべての犬は天国へ行く」そして「嫌われ松子の一生である。どれも心から楽しめたし、そのために一生懸命努力を積み上げここまで仕上げた「元・普通の女の子」たちが愛おしくて仕方がない。これからも、舞台役者としての彼女たちに注目し続けたいという気持ちをより高めてくれたのが今回の作品「嫌われ松子の一生」であった。若月祐美さん、桜井玲香さん、他の出演者の皆さん、スタッフさん、千秋楽まで身体に気をつけて走り付けてください。素敵な作品をありがとうございました。